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 浜峰のひものトップページ > 一魚一会に感謝 > 2004年12月07日 何ぞ書にのみ学ばんや
一魚一会に感謝
2004年12月07日
何ぞ書にのみ学ばんや

熊野灘を前にして延々とつづく弓なりの七里み浜がいい。かつて目路のかぎりにつらなった真帆片帆の賑わいはすでにないが、その洋々たる風景は、見失いかけた希望にも似ている。左に目をやれば、鬼ヶ城の奇岩が濤に抗うように起立する。

その姿に、日頃の志操のなさを振り返り、隣で太平洋に向かって口をあけている友人に同意をもとめる。浜峰で数日の朝餉のための干物を買った後、熊野をあとにするひとときのいつもの心象である。雑事にまみれながら過ごす日常を離れて、熊野を訪ねることが習いになってからもう5年になる。春に秋にと幾度ここに座って熊野灘をながめただろうか。

モンゴルの草原で過ごしたときに、半球の空の下、円形の地平線の真ん中で、宇宙の中心に浮かんでいるような感覚に襲われたことがあった。モンゴルの牧民のだれもが、自分を宇宙の真ん中にいる者と感じて生きているのではないか。チンギスハンが円形の地平線の向こうにあるものを求めて四方八方へと繰り出した歴史の謎が解けたように思えた。ネパールのヒマラヤ山中で過ごしたときは、谷をつめてカール(氷河の浸食による半円形の窪地)の中で、胎内にいるように眠った。テントは四周すべてを壁のような雪山に囲まれている。すべてが神々の山、ひときわ高い山は自分たちの守り神だと、シェルパのひとびとが信じるのもそのまま理解できる。

熊野のここはどうだろう。半球の空をかぶせたモンゴルの草原とも、半球のボールの底のヒマラヤのカールとも異なる、四半球の世界。山を背に、分度器の180度に広がる海を眺めていると、山に包まれる安心と、無限に広がる空間への不安とが同時におそってくる。近づきつつある死への不安か、それとも未知なる無限への戦きか。昔、都から吉野熊野の険しい山をこえて浜に降り立ち、はるかに広がる熊野灘に出会ったひとびとは、水平線のさらに向こうに浄土をみたという。いずれも熊野の海の与える深い啓示であろう。
いつものことながら神戸に帰ってしばらくは、サンマの干物を食べながら、熊野の天地の啓示の余韻にひたっている。しかし数日もせぬうちに文字の山に埋もれた日常に引き戻される。かつて佐藤春夫は「何ぞ書にのみ学ばんや/目を挙げて見よ熊野路の/深山に海にゆく雲に/啓示は尽きぬ天地を」と木本高校の校歌を書いた。そうなのだ、何ぞ書にのみ学ばんや。これではいかん目を挙げて見よというわけで、またまた熊野行は繰り返される。

古川 彰(ふるかわ あきら)
関西学院大学社会学部教授、専門はアジア地域研究、環境社会学
一魚一会ファンクラブ
リレーエッセー
2012年2月28日 還暦の記念冊子をいただきました。

第11回 2009年12月29日
出会いに感謝

寺口淳子(てらぐちじゅんこ)医療法人健康会京都南病院 看護部長

第10回 2009年10月31日
チューターのひとりごと

土屋雄一郎(つちや ゆういちろう)京都教育大学准教授

第9回 2009年6月16日
古くて新しい里

伊地知紀子(いぢちのりこ)愛媛大学法文学部 人文学科准教授


第8回 2008年9月30日
私と熊野〜後鳥羽上皇の熊野御幸をよみながら

松居和子(まつい かずこ)京都大学社会学研究室教務補佐


第7回 2008年6月30日
熊野古道の賑わいと味わい

寺口瑞生(てらぐちみずお)千里金蘭大学現代社会学部教授

第6回 2007年5月8日
四季を体験する方法

大野 哲也(おおの てつや)
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第5回 2004年12月29日
徐福伝説と冬の海

逵 志保(つじ しほ)
愛知県立大学文学部非常勤講師

第4回 2004年6月2日
暮らしの力

田原範子(たはら のりこ)
四天王寺国際仏教大学・短期大学部助教授

第3回 2004年2月11日
このみの山ずま居

中村律子(なかむら りつこ)
法政大学現代福祉学部助教授(高齢福祉学)

第2回 2004年12月07日
何ぞ書にのみ学ばんや

古川 彰(ふるかわ あきら)
関西学院大学社会学部教授:(アジア地域研究、環境社会学)

第1回 2004年10月22日
熊野の毒

松田素二(まつだもとじ)
京都大学文学部教授:(アフリカ地域研究、地域社会学)

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