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 浜峰のひものトップページ > 一魚一会に感謝 > 2004年06月02日 このみの山ずま居
一魚一会に感謝
2004年02月11日
このみの山ずま居

土地柄とか人柄とかということがある。柄というのは、そのものの性質やおかれている状況のことだと広辞苑にはある。それでは熊野の土地柄、人柄はどのように表現したらいいのだろうか。
穏やかで紺碧の熊野灘、清らかで雄大な熊野川、いくえにも重なる山並みの美しさ。本宮・速玉・那智の熊野三山。最近では熊野古道。その宗教的な神秘につつまれた時空のひろがりが佐藤春夫や中上健次の文学を生み、南方熊楠の不思議な学問を育んだ。 もちろん、こんな熊野の神秘性にも惹かれているけれど、土地柄というのとはすこし違うような気がする。 「木の国の 熊野の人は かし粉くて このみの 山ずま居 今はむかしとなりはひも 裏やすと裏々は 魚つり あみひき 勇魚とり あこととのふる あまが子も 声いさましく あしびきの 山は炭やき 松ゑんのかまど賑ふそま人は 福がめぐりて きのえねの よき年がらと打集ひ 噂山々 さき山は 斧をたかげて 山入し 大木を 伏せてきりさばき」(梅原猛『日本の原郷 熊野』新潮社から)と佐藤春夫の曾祖父である佐藤椿山が謳ったのは200年も前のことであろう。だけど、これぞ熊野と、おもわず膝を打って、熊野のTさんを思い出す。

熊野に行くたびに訪れるU地区は全人口38人、その多くの方々が70歳代から90歳代である。かつては棚田もあり林業が盛んな土地ではあったが、今はその面影だけがかすかに残されている集落である。Tさんは豪毅な性格で、柔和な娘さんと二人暮らしである。お二人のもてなしは朴訥ではあるが、あたたかい。薪をくべ竈で炊いた「茶粥」が用意され、夏には渓流で捕れる鮎がならぶ。お八つに出される橡餅は、橡の実の皮を寒流水で剥きながらあく抜きに十日をかけ、乾燥させて石臼で挽いた粉で仕上げられた素朴な味わいのままである。

椿山の長歌そのままの暮らしが、いまも生きられている。今も昔も同じ暮らしをしているわけではないのに、無意識の底に祖先の息吹、記憶、夢が何百年も何千年も継がれてきているような感覚に目覚めさせられる。外形は変わっても、変わらないものがある。その変わらないものこそが土地柄であり、その土地柄が生み出すものが人柄なのであろう。
 いまU地区は過疎高齢化のおおきな流れの中にある。Tさん94歳、娘さん71歳。渓流から家々に水を引くための貯蔵池やホースの継ぎ目や道路の清掃は、みんなが交代でおこなう村仕事だ。人びとは寄り添うように暮らしているが、これからこの地区はどうなるのだろうかと不安にもなる。猿と猪、そして鹿による田畑の獣害による被害はたいへんなものだろう。でも、「あいつらにも家族がおるもんで」と笑いながら声いさましく話すTさんの人柄に、私の小さな不安も吹き飛ばされる。この人柄は、贅沢で穏やかな熊野の土地柄が生み出した豪毅と木訥にしっかりと支えられたかし粉さで揺るぎない。

中村律子(なかむら りつこ) 法政大学現代福祉学部助教授 専門:高齢福祉学
一魚一会ファンクラブ
リレーエッセー
2012年2月28日 還暦の記念冊子をいただきました。

第11回 2009年12月29日
出会いに感謝

寺口淳子(てらぐちじゅんこ)医療法人健康会京都南病院 看護部長

第10回 2009年10月31日
チューターのひとりごと

土屋雄一郎(つちや ゆういちろう)京都教育大学准教授

第9回 2009年6月16日
古くて新しい里

伊地知紀子(いぢちのりこ)愛媛大学法文学部 人文学科准教授


第8回 2008年9月30日
私と熊野〜後鳥羽上皇の熊野御幸をよみながら

松居和子(まつい かずこ)京都大学社会学研究室教務補佐


第7回 2008年6月30日
熊野古道の賑わいと味わい

寺口瑞生(てらぐちみずお)千里金蘭大学現代社会学部教授

第6回 2007年5月8日
四季を体験する方法

大野 哲也(おおの てつや)
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第5回 2004年12月29日
徐福伝説と冬の海

逵 志保(つじ しほ)
愛知県立大学文学部非常勤講師

第4回 2004年6月2日
暮らしの力

田原範子(たはら のりこ)
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第3回 2004年2月11日
このみの山ずま居

中村律子(なかむら りつこ)
法政大学現代福祉学部助教授(高齢福祉学)

第2回 2004年12月07日
何ぞ書にのみ学ばんや

古川 彰(ふるかわ あきら)
関西学院大学社会学部教授:(アジア地域研究、環境社会学)

第1回 2004年10月22日
熊野の毒

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