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 浜峰のひものトップページ > 一魚一会に感謝 > 2007年05月08日 四季を体験する方法
一魚一会に感謝
2007年05月08日
四季を体験する方法

ずらっと並んだ計器類は、ダッシュボードから完全にはずれてしまい、歪んだ形でずり落ちていた。機体は微振動しながら上下左右に大きくうねり、機内ではエンジン音とそこら中から出てくるさまざまな音が鳴り響く。そんなおんぼろセスナは、ドスンドスンと2回バウンドしてからようやく止まった。ほうほうの体で外に転がり出てみると、そこは地上の楽園だった。透き通った真っ青な海とカリカリに焼けた白い砂浜、たわわに実をつけた椰子の木々。周辺の島々が、みんな小さいというのも気に入った。空港の島のとなりには、「椰子の木5本と家1軒」というような島がぽっかり浮かんでいる。パナマのサンブラス諸島。僕は小さな島の小さなホテルにチェックインした。ここもホテルだけの島で、ほかに建築物はない。各コテージは、波打ち際に細い竹を何十本も砂に突き刺して囲いをつくり、その上に椰子の葉を乗せているだけ。室内にあるのはベッドとケロシン・ランプだけで、足元は砂のまま。夜、ベッドに寝転んで波の音を聞いていると、小さな野ねずみが、僕の体の上を急ぎ足で横断していった。

砂浜から10メートルくらいの橋げたが沖に向かって伸びていて、先端に小屋がついていた。ここはトイレだ。床にぽっかり開いた穴から下を覗くと、大きな魚がウヨウヨしていた。彼らは上からエサが落ちてくるのを待っているのだ。彼らの期待に応えるべく、できるだけ大きなエサを落下させると、周囲からいろんな魚が突進してきて、海の中はお祭り騒ぎになった。色鮮やかな魚たちの混乱ぶりは、まるで水族館の餌付けみたいだ。トイレで待機しているのは、魚だけではない。子どもたちがボートに乗って、そういう理由で集まっている魚を狙って釣り糸を垂れていた。彼らは釣れた魚をホテルに売って、小遣いを稼いでいるのである。もちろん当然のことだが、毎晩僕が食べていた魚は、その魚である。まさに自然のサイクルを目の当たりにできるわけで、これにはなんとも言えない感動があった。

高度経済成長期を経て、現在の日本社会に生きるわれわれは、以前では想像もできない快適な生活を享受している。自動車や電車などの交通網、インターネットで流通している大量の情報、24時間営業のコンビニエンス・ストアなど、数え上げればきりがない。しかし、それと同時に失ったものも多かった。竹馬に乗り、ホオズキで笛を吹き、川で泳ぐというようなことを、いつの間にかしなくなってしまった。なんだか、自然と日常生活が隔離していって、その関係がどんどん希薄になっている気がする。現代生活における快適性とは、季節感を喪失させることでもあるのだろうか。そのような都会の息苦しさを感じると、僕は無性に熊野へ行きたくなる

熊野に行くと、忘れかけていた自然のサイクルを肌で感じることができる。丸山千枚田に植えられた苗の緑に春を感じ、熊野古道の木々の間を吹き抜ける一瞬の風に夏を感じ、二木島の水揚げされるサンマの迫力に秋を感じ、どっぷり肩まで浸かった湯ノ口温泉の心地よさに冬を感じる。サンブラスと熊野、遠く離れていても、人々が自然と上手に付き合いながら生活を営んでいる、その根っこは同じである。

島を離れるとき、乗り込んだセスナは来たとき以上のおんぼろだった。例によって、目の前に並ぶ計器類を見てみると、燃料計の針が「E」(空っぽ)を完全に振り切っていた。心配になった僕は、陽気なおじさんパイロットに「大丈夫か?」と一応聞いてみた。すると、オヤジは「こんだけ入っていれば安心だ」と言ってニヤッと笑った。

大野 哲也(おおの てつや)  京都大学大学院博士課、探検家
一魚一会ファンクラブ
リレーエッセー
2012年2月28日 還暦の記念冊子をいただきました。

第11回 2009年12月29日
出会いに感謝

寺口淳子(てらぐちじゅんこ)医療法人健康会京都南病院 看護部長

第10回 2009年10月31日
チューターのひとりごと

土屋雄一郎(つちや ゆういちろう)京都教育大学准教授

第9回 2009年6月16日
古くて新しい里

伊地知紀子(いぢちのりこ)愛媛大学法文学部 人文学科准教授


第8回 2008年9月30日
私と熊野〜後鳥羽上皇の熊野御幸をよみながら

松居和子(まつい かずこ)京都大学社会学研究室教務補佐


第7回 2008年6月30日
熊野古道の賑わいと味わい

寺口瑞生(てらぐちみずお)千里金蘭大学現代社会学部教授

第6回 2007年5月8日
四季を体験する方法

大野 哲也(おおの てつや)
京都大学大学院博士

第5回 2004年12月29日
徐福伝説と冬の海

逵 志保(つじ しほ)
愛知県立大学文学部非常勤講師

第4回 2004年6月2日
暮らしの力

田原範子(たはら のりこ)
四天王寺国際仏教大学・短期大学部助教授

第3回 2004年2月11日
このみの山ずま居

中村律子(なかむら りつこ)
法政大学現代福祉学部助教授(高齢福祉学)

第2回 2004年12月07日
何ぞ書にのみ学ばんや

古川 彰(ふるかわ あきら)
関西学院大学社会学部教授:(アジア地域研究、環境社会学)

第1回 2004年10月22日
熊野の毒

松田素二(まつだもとじ)
京都大学文学部教授:(アフリカ地域研究、地域社会学)

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