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 浜峰のひものトップページ > 一魚一会に感謝 > 2009年06月16日 古くて新しい里
一魚一会に感謝
一魚一会ファンクラブ
リレーエッセー
2012年2月28日 還暦の記念冊子をいただきました。

第11回 2009年12月29日
出会いに感謝

寺口淳子(てらぐちじゅんこ)医療法人健康会京都南病院 看護部長

第10回 2009年10月31日
チューターのひとりごと

土屋雄一郎(つちや ゆういちろう)京都教育大学准教授

第9回 2009年6月16日
古くて新しい里

伊地知紀子(いぢちのりこ)愛媛大学法文学部 人文学科准教授


第8回 2008年9月30日
私と熊野〜後鳥羽上皇の熊野御幸をよみながら

松居和子(まつい かずこ)京都大学社会学研究室教務補佐


第7回 2008年6月30日
熊野古道の賑わいと味わい

寺口瑞生(てらぐちみずお)千里金蘭大学現代社会学部教授

第6回 2007年5月8日
四季を体験する方法

大野 哲也(おおの てつや)
京都大学大学院博士

第5回 2004年12月29日
徐福伝説と冬の海

逵 志保(つじ しほ)
愛知県立大学文学部非常勤講師

第4回 2004年6月2日
暮らしの力

田原範子(たはら のりこ)
四天王寺国際仏教大学・短期大学部助教授

第3回 2004年2月11日
このみの山ずま居

中村律子(なかむら りつこ)
法政大学現代福祉学部助教授(高齢福祉学)

第2回 2004年12月07日
何ぞ書にのみ学ばんや

古川 彰(ふるかわ あきら)
関西学院大学社会学部教授:(アジア地域研究、環境社会学)

第1回 2004年10月22日
熊野の毒

松田素二(まつだもとじ)
京都大学文学部教授:(アフリカ地域研究、地域社会学)

2009年06月16日
古くて新しい里

七里御浜 熊野、七里御浜に行ったことがありますか?
熊野から新宮まで約七里、途切れることなく続くこの砂浜は、まるで両手を広げ熊野灘を全身で受け止めているかのようです。この浜に立つと、自分がまるで足下に転がっている小石のように思え、絶えることない波の律動のなかでゆったりとした気持ちになっていることに気付きます。この波間からグイッと引揚げられた魚たちが、青々とした空の下でじんわり旨味をだしながら浜峰さんの干物になっていくのでしょうね。
 七里御浜から海岸に沿って北上していくと、この広々とした砂浜とは異なる景観に出会います。木々の間をぬうように道なりに進むと、時折視界が開けて見えてくるのは斜面に段々と並ぶこじんまりした田畑、そして小さな漁港を囲んで立ち並ぶ家並みです。私が初めてこの漁港の一つを訪れたのは14年前になります。とある所で知り合った人がしばらく滞在していると聞き、真っ暗な伯母峰峠のくねくね道に入り込んだりしながら6時間近くかけて着いたことを思い出します。今では少し道に馴染んで、たまに斑鳩の里に迷い込むときもありますが、国道169号に乗って吉野の風景を眺めたりしながら行くと西宮発で4時間ほどでしょうか。

 8年前に居を四国・愛媛に移し、5年ほど前からはそこから熊野を訪れます。この頃初めて訪れた漁村で、家々をつなぐ階段に座り込み談笑している女の人たちに出会い思わず声をかけました。「見たことないけどの、どこから?」の質問に、「四国です」と答えてから、「なんでここに?」と問い返されるとどうしようかな‥という思いがふと頭をよぎりました。しかし、返ってきた言葉は、「えらい遠いとこからの〜、四国もこのへんの人いっとたけどの。けど私は中国の大連まで行ったことがある」。そこから、戦前での中国での生活、敗戦でここに戻るまでの苦労がまるでつい昨日のことのように熱く語られ、一緒に座っていた人たちも「あんときは、私らもの〜」と所々に間の手を入れます。私は、平均年齢80歳半ばのこの談笑の輪のなかに、すっかり座り込んでしまっていました。20世紀をど〜んと生きてこられた人たちにとっては昔話の一コマかもしれませんが、その一部をちょろっと生きてきた私にはどの話も新鮮で、いつまでも耳を傾けてしまいます。

 昨年は韓国の友人とともに、とある山村を訪ねました。車でくねくねと山道を登っても登っても着かないので、次の角を曲がったら道がないんじゃないか、でも車は急に止まれないと思いながらようやく辿り着きました。斜面に沿った段々畑の横道を少し登ると、おいでおいでと手を振ってくださる二人の人影があります。お二人の背後に広がるのは、空、そして切り立った山の頂き。まるで民話の世界にいるみたいだと思いつつ歩いて行くと、軒先の長椅子に座るお二人に話し好きの友人が「韓国から来ました」と声をかけました。

 すると、男の方が「アンニョンハセヨ〜。オディソワッソヨ?(こんにちは、どこから来たのですか?)やったかな、ハハハ〜」。私たちは目が点になり、ここで韓国語を聞くとはと顔を合わせてただ驚くばかりでした。お二人は90歳のお兄さんと87歳の妹さん。お兄さんは戦前、満20歳のとき朝鮮半島南部の港町である鎮海に兵隊として行かれたそうです。当時、同じ部隊の朝鮮人と仲良く酒を飲みながら言葉を覚えた様子が、まるで目の前で繰り広げられているかのように語られ、私たちはすっかり聞き入っていました。そして、日本の敗戦で引き上げる前に、お兄さんは日本軍が在留していた村の住民と兵隊たちとの間に立ち、住居の明け渡しなどがスムーズにいくよう尽力したエピソードを教えてくださった後で、「日本と韓国もいろいろあるけど、お互い顔を見ながら話せば仲良くできる」とおっしゃいました。友人の感想は「日本と韓国は近くて遠い国同士と言われるけれど、生活のなかでは繋がっているんだなあと思った」というものでした。

 こんなふうに海辺や山の中でいろんなお話を伺っていると、何だか懐かしいような、でもとても新鮮な気持ちになります。なんで懐かしいのでしょうね。私が田んぼでワラまみれになって転げ回ったり川で泳ぎまくったのは、これまでの人生のたった8分の1程度です。そのせいでしょうか。それでは、なんで新鮮なのでしょうね。まだ若く(?)苦労を知らないからでしょうか。確たる理由はまだ見当たりません。難しく考える前にとりあえず熊野に行ってみます。そして、いつもおいしい「ゆうかりカレー」を食べに行ったり、最初は漁師さんだと思い込んでいた市役所のサトシさんの顔を見に行ったりしながら、思いがけない出会いや出来事の新しさにドキドキしています。もしかすると、今日はお元気かなと再訪したときに、「あら、このまえの!」と笑顔で言ってもらえるのが嬉しいからだけなのかもしれません。懐かしくて新鮮、熊野は何かとても大切なことを教えてくれるような気がする、そんな古くて新しい里なのです。

伊地知紀子(いぢち のりこ)愛媛大学

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