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 浜峰のひものトップページ > 一魚一会に感謝 > 2009年10月31日 チューターのひとりごと−熊野合同調査実習にて−
一魚一会に感謝
2009年10月31日
チューターのひとりごと−熊野合同調査実習にて−

 食卓から「旬」が消え、年中の行事にも季節感が薄らぐ毎日を過ごすなかで、熊野は、自分にとって、一年の季節を感じるたいせつな「定点」になりつつある。訪ねるたびに、気心の知れた人たちとの何気ない会話、見慣れた風景にホッとする。
 京都大学と関西学院大学の学生が参加する「合同調査実習」を手伝わせてもらったことが、熊野との出会いである。以来、ワンボックスカーに学生を乗せ、ハンドルを握りながら丸山千枚田を吹き抜ける風に初夏を感じ、サンマの豊漁に沸く初秋を舌で味わい、いで湯の煙にほっこりと身体を抱かれる初冬に奥熊野路を駆け抜けている。

 「よろしくお願いします!」と声がかかる。お彼岸の中日を過ぎたとはいえ残暑は厳しい。辺りを飛び交う赤とんぼの群れに、わずかばかり、すぐそこまでやってきている秋を感じながらエンジンを始動させる。これから始まる調査実習、熊野に暮らす人びとや出来事との出会いへの期待と不安とが入り混じり同居している車内。そんな彼らに、車窓に広がる豊かな奥熊野の風景は、何を語りかけているのだろうか。
 実習中、私には、チューター(「運転手さん」)という役割を与えられている。しかし、さしてなにをするわけではない。集落に学生を送り届け、ひとたび調査が始まれば、ただ「待つ」だけである。ひたすら、のどやかに時間だけが流れる。「忙」という漢字は、「心をなくす」と書くのだとある人は言う。なるほど、10分おきに発車する通勤電車に乗り遅れイライラを募らせる自分を、熊野川が大きく蛇行するような、雄大な時の流れのなかに解き放ってみると、まるで哲学者か思想家にでもなったような気にさえなる。かつて「待つことも調査のうちだよ」と先輩に教えられたことを思い出しながら、神社の木漏れ日のなかでしばしまどろむ。

 大樹に寄りかかり、うつらうつらしていると、いつのまにか陽は傾きかけ、遠くから覚えのある声が聞こえてくる。彼らが戻ってきたのだ。よく「いまどきの学生は」とか「若いもんはなってない」などと言われてきたし、最近は、思わず同じ言葉を逆の立場から発してしまいそうになるときがある。でも、調査で出会った一人の古老は、「青年の本質はどんな時代にも変わらない。青年はどんな時代にもすばらしい」と教えてくれる。たしかに、調査を終え、気づいたことを口々に語り、あすの課題について熱心に話しを始める彼らの顔は、日を追うごとに、熊野の人びととの出会いを重ねるごとに元気を増し自信に満ちてくる。そして、そうした学生たちの実践の成果のなかには、卒業論文や大学院の研究テーマとしてもたいへん興味深い問いと発見が多くあるからだ。

 温泉に立ち寄りその日の疲れを癒したあとの宿舎までの道のり。いつしか静かになった車内で彼らの寝息をバックミラー越しに感じながら、「「いい調査」ができたんだろうなあ」、「いいチームワークを組めるようになったんだなあ」などと、少しばかり、したり顔の自分がハンドルを握っている。柄にもなく、自分の学んだことが、社会システムや地域コミュニティの生活実践のなかでいかに役に立つスキルであるのかを実感することの重要性を思ったりする。

 浜街道、浜峰商店に近い七里御浜を見渡す駐車場。一年の出会いと別れを見守ってきたこの場所には、いつものように調査実習を終えた学生たちの笑顔がある。古来より多くの旅人とともにあった巡礼の道に誘われた時間を、たくさんの人たちの協力によって無事に過ごせたことに感謝し、帰路の安全を願う。

土屋雄一郎(つちや ゆういちろう)京都教育大学准教授
一魚一会ファンクラブ
リレーエッセー
2012年2月28日 還暦の記念冊子をいただきました。

第11回 2009年12月29日
出会いに感謝

寺口淳子(てらぐちじゅんこ)医療法人健康会京都南病院 看護部長

第10回 2009年10月31日
チューターのひとりごと

土屋雄一郎(つちや ゆういちろう)京都教育大学准教授

第9回 2009年6月16日
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伊地知紀子(いぢちのりこ)愛媛大学法文学部 人文学科准教授


第8回 2008年9月30日
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第7回 2008年6月30日
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第6回 2007年5月8日
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大野 哲也(おおの てつや)
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第5回 2004年12月29日
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第4回 2004年6月2日
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第3回 2004年2月11日
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第2回 2004年12月07日
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古川 彰(ふるかわ あきら)
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第1回 2004年10月22日
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